サステナビリティへの関心が高まる今、衣類を「捨てずに活かす」という選択肢が、アパレル企業の新たなブランド価値の基準になっています。

静脈産業は、衣類の再利用を通じて、循環型社会の構築を支える仕組みのひとつです。特に企業にとっては、環境課題の解決に貢献するだけでなく、ブランド価値の向上やコスト削減といったメリットも期待されています。

今回は、静脈産業の担う役割と環境や企業成長との関連性、今後の課題を解説します。

循環型ファッションの推進は、環境やコスト面でのメリットに加え、サステナブルな取り組みに高い関心をもつZ世代の顧客獲得にも貢献するでしょう。

静脈産業とは?アパレル業界での役割と循環型社会への影響

環境問題が深刻化する今、アパレル企業にもサステナブルな取り組みが求められています。限りある資源を有効活用し、廃棄物を減らす重要な役割を担う静脈産業の基本的な仕組みと、アパレル業界への具体的な影響を解説します。

静脈産業とは何か

家庭や企業から出た不要衣類を回収し、リサイクルや正しい方法で処分を行う分野を「静脈産業」といいます。主な3つの役割は以下のとおりです。

①不用衣類の回収と分別⋯不要な衣類を回収し、素材や状態で分別
②リサイクル⋯分別された衣類を加工し、新しい素材や製品を生産
③適正な販売と処分⋯リサイクルされた製品を市場に流通、リサイクル不可品は適切に処分

動脈産業との違い|静脈産業との関係性

自然資源からつくった製品を販売・流通させる分野を「動脈産業」といい、アパレルメーカーや繊維メーカーが含まれます。

新品の衣類を生産して市場へと供給するのが動脈産業で、役目を終えた衣類を回収するのが静脈産業です。両者の役割は、心臓から送り出される動脈と、全身から回収された血液を心臓に戻す静脈にたとえられています。

循環型社会の実現に欠かせない静脈産業の役割とは

これまでのファッション業界では、衣類を大量に作っては使い捨てるというサイクルが当たり前のようになっていました。しかし企業が利益を最優先する裏側で、環境負荷・労働問題など深刻な課題を抱えているのです。

「作る→使う→捨てる」の一方通行モデルから、「捨てずに循環させる」仕組みへ転換が進むアパレル業界。衣類を別の製品や素材に生まれ変わらせる静脈産業は、今後ますます期待が寄せられる業界です。

アパレル業界の現状から紐解く!静脈産業が注目される理由

アパレル業界では衣類の大量廃棄が深刻な社会課題となっており、企業のブランドイメージにも影響を及ぼしています。静脈産業との協力は、廃棄物の削減だけでなく、環境意識の高い消費者への信頼獲得にもつながるのです。ここでは、企業と静脈産業の協力によって得られる環境問題への貢献と企業の成長の可能性について解説します。

アパレル業界の衣類廃棄問題

従来のアパレル業界では、大量に衣類を生産・消費し、廃棄されるサイクルが一般的でした。このサイクルによる環境負荷が深刻化しています。

衣類は素材の調達から生産・廃棄のすべての工程で大量の資源を消費し、二酸化炭素を排出。衣類1着あたりの排出量は約25.5㎏、水の使用量は約2,300Lに達します。さらに廃棄衣類の大部分が燃やされたり埋め立てられたりするため、温室効果ガスの排出や埋立地不足が深刻化しているのです。

衣類産業の環境負荷は、アパレル企業のブランドイメージの低下を招き、早急な解決が求められる問題です。

日本の古着回収事情

我が国で手放された衣類のうち再利用(リユース)・再資源化(リサイクル)される衣類は全体の約3割ほどです。手放された衣類の7割ほどは、ごみとして焼却や埋立処分されており、その量は年間約45万トンにも及びます。

処分される服の中には、まだ着られる服もたくさん含まれています。この現状を変えるため、需要に応じた適切な供給バランスと、不要衣類の分別回収の推進が必要です。

参考:環境省「SUSTAINABLE FASHION」

静脈産業は環境保護と企業の成長を両立 

静脈産業は、リサイクルで資源を循環させる役割があります。資源を何度も活用し、ごみを減らす社会を目指す鍵を握るのが静脈産業です。

「作って売る」一方通行モデルから、動脈産業と静脈産業が協力し「作る→売る→循環させる」という、ごみを減らすモデルへの転換が急務です。

使い捨てのファッションから循環するファッションへの転換は、環境保護への貢献だけでなく、廃棄コストの削減、在庫管理の最適化、環境意識の高い消費者層からの信頼獲得など、企業の価値や利益の向上にもつながります。

静脈産業と動脈産業の連携強化|企業が直面する課題と対応策

循環型モデルの実現には動脈産業と静脈産業、両者間の協力が必須です。連携によるリサイクルの推進は、環境配慮型ブランドとしての信頼を獲得し、成長につながる可能性も広がります。ここでは企業が直面する課題と対策に加え、ある企業の取り組み事例をご紹介します。

リサイクル技術向上と処理方法の標準化

静脈産業全体では、企業ごとにリサイクルや廃棄物処理の方法が異なり、標準化されたルールや効率的な仕組みが整っていないのが現状です。そのため、企業同士が協力して効率よく処理する仕組みを整えにくく、業界の成長が妨げられています。さらに、リサイクル原料の品質にばらつきがあり、新たな製品に活用しづらいといった技術面の課題も。

リサイクル技術の底上げと統一された仕組みづくりが進むと、資源はより円滑に循環します。企業は、再生素材の安定的な調達が可能になり、環境への負担を減らす製品づくりが実現します。

デジタル化推進で実現!動脈産業との連携強化

静脈産業においても、デジタル化の遅れが情報共有や業務効率化の障壁となっています。特にリサイクル素材の利用拡大には、動脈産業からの製品情報や素材データの提供が不可欠です。動脈産業との情報連携強化に向けた基盤づくりの必要性が高まっています。

情報の可視化・共有は、製品の流れを見える化する取り組みや在庫最適化にもつながり、より効率的で透明性の高い企業への成長可能性を高めます。

静脈産業の企業事例|動脈産業との連携モデル

ブランド古着の買取と販売を行う「ラグタグ」は、動脈産業と静脈産業を連携させた循環モデルを展開しています。

パタゴニアなど他社ブランドに対し、衣類買取に関するノウハウの提供を開始。動脈産業が衣類を循環させる仕組みを取り入れることで、消費者も手軽に服を再利用しやすくなるというメリットがあります。自動採寸・画像加工といったIT技術による作業効率化も進めており、静脈物流のコスト面の課題も解決しています。

参考:株式会社ティンパンアレイ「ニーズが広がる二次流通市場で新サービススタートー「ラグタグ」が培った買取プログラムの外販開始 ー」

まとめ|静脈産業の可能性とアパレル企業が果たす役割…循環型社会の実現へ

アパレル業界における環境課題の解決には、静脈産業との連携が欠かせません。企業と静脈産業の協力により、資源の循環、環境負荷の軽減、消費者からの信頼獲得といった多くの価値を生み出すことができます。

「作って売るだけ」から「循環させる」仕組みへの転換は、地球の環境を守るだけでなく、ブランドイメージの向上や企業の成長に大きく貢献するのです。