マテリアルに着目したリサイクルとは|アパレル業界の発展と環境保護への取り組み
リサイクル手法の一つである「マテリアルリサイクル」。聞いたことはあっても内容や他のリサイクル手法との違いがわからない人は多いでしょう。
サステナブルな取り組みへの要請が高まるアパレル業界では、企業の積極的なリサイクル活動が必須といえます。
今回は、マテリアルに着目したリサイクル手法とは何かを解説し、その現状や課題、すでに取り組んでいる企業の成功事例をご紹介します。
マテリアルリサイクルの活用は、環境保護やファッション業界の発展に加え、企業の社会的評価やブランド価値向上にも役立ちます。
目次
マテリアル方式で進めるリサイクルとは「服からもの」に再生する手法

地球温暖化や大量廃棄など、環境問題を抱えるアパレル業界では「消費型」から「循環型」への消費モデルの転換が求められています。リサイクルは循環型社会の実現に向けた取り組みの一つです。まずは、リサイクル手法の一つである「マテリアルリサイクル」とはどんな方法かを見ていきましょう。
衣類の3種類のリサイクル方法
衣類のリサイクル方法は、大きく以下の3種類に分類されます。
■マテリアルリサイクル
処分されたものを別の製品の原料として再利用する方法です。「ペットボトルから衣類」など「もの→もの」へのリサイクルを指します。
■ケミカルリサイクル
処分されたものから取り出したいくつかの物質を化学反応させ、新しい物質をつくり出す方法です。回収したポリエステル繊維の衣類を再生ポリエステルに変え、その素材を新たな服や製品に利用するという技術も発展しています。
■サーマルリサイクル
ごみの焼却時に発生するエネルギーを利用したリサイクル方法です。資源として分別されない不要衣類の多くは、焼却処分されます。燃やした際に生じたエネルギーは、温水プールや発電など別の用途に利用されます。
マテリアルリサイクルは2種類に分けられる
「もの→もの」へ生まれ変わるマテリアルリサイクルには、2種類の方法があります。
■レベルマテリアルリサイクル
古紙→コピー用紙のように、同じものをつくる際の材料として、廃棄物を再び利用する方法です。元の製品と同レベルの品質が求められるため、ていねいな分別・洗浄・加工が必要です。
■ダウンマテリアルリサイクル
元の製品の品質基準に満たない素材を、別の新しい製品の材料として再び利用する方法です。レベルマテリアルリサイクルより品質基準は緩和され、リサイクルの工程を簡素化できます。
衣類から「もの」への具体例
衣類のマテリアルリサイクルのほとんどがダウンマテリアルリサイクルです。具体例は以下のとおりです。
・古着 → ウエス(雑巾や工場の油拭き用布)、自動車の防音材
・合成繊維100%の衣類 → ファスナー、ボタンやなど
・ペットボトル → 衣類の原料
・ユニフォーム → 別の製品の原料
関連記事:衣類産業のケミカルリサイクルとマテリアルリサイクル|違いや具体例を解説
マテリアル資源を活かしたリサイクルの現状とは…メリットや課題

循環型社会の実現には、リサイクルの拡大が欠かせません。我が国でのリサイクル事情、特にマテリアルリサイクルの浸透度はどれくらいあるのでしょうか。ここでは、マテリアル資源を活かしたリサイクルの現状やメリットとは何かを確認し、今後の課題を整理します。
マテリアル資源の活用による環境負荷軽減
新品の衣類の製造には大量の石油が使用され、その製造過程で多くの資源やエネルギーが消費されます。しかしマテリアルリサイクルでは、生産時の資源やエネルギー使用を抑え、二酸化炭素や有毒ガスの排出も削減できます。
また、再生素材を直接再利用するため、焼却処理(サーマル)や化学分解(ケミカル)よりも廃棄物の発生を抑える効果も。
さらに、単一素材でつくられた衣類は分別や洗浄といった工程が簡潔で、ウエスや防音材へのリサイクルは厳密な品質管理が不要です。工程や管理が簡単なため、コスト削減にもつながります。
日本の衣類のリサイクルの現状
事業所や家庭から手放される衣類は年間73.1万トン。そのうちリサイクル処理される衣類は12.7万トンで、手放される衣類の2割にも及びません。ほとんどがごみとして捨てられているのです。
衣類のマテリアルリサイクルは、ウエスや雑巾などへの再利用がほとんど。同じ用途への再生、つまり繊維から繊維へのリサイクルの取り組み事例が少ないのが現状といえます。
環境省「環境省 令和4年度循環型ファッションの推進方策に関する調査業務-マテリアルフロー-」
マテリアルリサイクルを進めるために必要なこと
マテリアルリサイクルを進めるには、いくつかの課題をクリアしなければなりません。
たとえば、複数の素材でできた服をリサイクルに必要な素材に分解するには、高い技術力が必要です。さらに、リサイクルの繰り返しによる再生素材の品質低下や、不要衣類の資源回収率の低さといった課題も挙げられます。
マテリアルリサイクルの推進に向けて、企業には以下の取り組みが求められます。
・綿やポリエステル100%など単一素材の衣類づくり
・混合素材の自動分別技術の導入
・品質劣化を抑制する技術の革新
・分別ルールの簡素化など消費者の負担を減らす工夫
マテリアルを活かしたリサイクルとは?企業の取り組み事例を紹介

マテリアルを活かしたリサイクルとは、アパレル企業が注目する再資源化の手法です。ここからは、マテリアルリサイクルに取り組む企業の事例をご紹介します。昨今の若い世代は、サステナブルな取り組みをしている企業を高く評価し、消費行動につなげています。企業事例を通して、自社でできることから取り組んでみましょう。
ペットボトルをTシャツにリサイクル
世界中にファンをもつ大企業「ウォルト・ディズニー・カンパニー」。アメリカの「ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート」は、繊維メーカーとパートナーシップを組み、ペットボトルからTシャツへのリサイクルに取り組んでいます。
施設内で回収されたペットボトルから繊維を再生し、再生された繊維をTシャツの素材として使用。日々大量に発生する廃棄ペットボトルの有効活用は、ごみ削減や環境保護に加え、企業イメージの向上にも役立ちます。
参考:IDEAS FOR GOOD「子どもたちにリサイクルの大切さを。米ディズニー、園内で出たペットボトルをTシャツへ」
高品質のリサイクルファスナーを提供
主にファスナーを生産する「YKK」は、持続可能な事業モデルが提唱される以前から、再生ポリエステルを使用したファスナーづくりに取り組んできました。
リサイクルファスナーの生産拠点を世界中に拡大しており、その販売量は全体の12%で約9,300万本のペットボトルに相当する量(2021年度)。リサイクルの先駆者として繊維業界を牽引する姿勢や、アパレル企業との技術連携は、他社の環境への取り組みの見本になっています。
参考:YKK DIGITAL SHOWROOM「“善の巡環”というYKK精神から生まれた NATULON」
定番商品をマテリアルリサイクル
ユニクロやGUを手がける「ファーストリテイリング」は、大手の化学・素材メーカーである東レとパートナーシップを締結。これまでにフリースや肌着など多くの人気商品の素材を共同開発してきました。
マテリアルリサイクルを駆使し、ペットボトルからリサイクルポリエステルでできた糸を再生。東レの技術により生み出された高品質な糸は、マテリアルリサイクルの課題とされていた品質や耐久性の問題を克服しました。アパレルブランドと素材メーカーの協力により実現した、マテリアルリサイクルの技術革新の事例といえます。
参考:ELEMINIST「「ユニクロのリサイクル」を支える東レの技術革新 おなじみの製品に隠された地道な努力」
まとめ|マテリアルリサイクルとは企業が持続可能性を実現するカギ
マテリアルに着目したリサイクルの推進は、環境負荷低減効果や経済的効果が高く、企業にとっても社会全体にとっても、その必要性が高まっています。
企業におけるマテリアルリサイクルとは、ただの「再利用」ではありません。マテリアルリサイクルは、環境保護やコスト面でのメリットのほか、企業のブランドイメージ向上にも貢献します。
世間がサステナビリティに注目する中、企業のリサイクル活動への積極的な参加は、社会的な評価にも大きく影響を与えます。