環境への負担や労働環境の問題など、アパレル産業は今さまざまな課題に直面しています。

これまで主流だった「不要になったら捨てる」という直線的な仕組みではなく、資源を循環させるファッションへの移行が求められています。循環型モデルを取り入れ、持続可能な社会に貢献したいけれど具体的な方法がわからない、と悩む企業の担当者も多いでしょう。

今回は、アパレル業界が循環型のファッションに取り組むべき理由・メリットと、すでに取り組んでいる企業の事例や具体的手法を解説します。

循環型のファッションの導入・実現により、社会貢献やブランドイメージの向上に役立ちます。

循環型のファッションとは?アパレル業界が取り組むべき理由

近年、アパレル業界では、資源を可能な限り再利用し、廃棄物を出さない循環型モデルが注目されています。アパレル業界が抱える環境問題を踏まえ、企業の役割と取り組みがもたらすメリットを確認しましょう。

循環型ファッションの概念

循環型のファッションは、服の製造から廃棄までの過程で、資源を無駄にせず繰り返し活用する取り組みです。

これまでの「使い終わったら捨てる」という直線型モデルは、多くの資源を消費しながら大量の廃棄物を生み出していました。一方、循環型のファッションは、不要な衣類を廃棄せず、資源を繰り返し利用し、新たな製品を生産するシステムです。

製品の設計段階から、再利用可能な素材選びや環境に配慮した生産方法の採用が期待されています。

アパレル産業が直面する環境問題

国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、アパレル業界は世界で2番目に環境汚染を招く産業とされています。

たとえば、1着の衣服を作ったり染めたりするのに必要な水は、約2,300Lにもなります。また、原材料調達から製造、輸送、焼却までの工程で年間約9,000万トンの二酸化炭素を排出するのです。

原料の綿花栽培でも水と化学肥料が多く使用され、土壌汚染の原因に。不要になった衣類の埋立処分による土壌汚染も懸念されています。さらに合成繊維の洗濯により、年間約50万トンのマイクロファイバーが海に流出し、海洋汚染の一因となっています。

深刻化する環境課題の解決には、企業の循環型のファッションへの取り組みが欠かせません

参考:環境省「SUSTAINABLE FASHION」

循環型ファッションで実現する持続可能な未来

現状の「作っては捨てる」消費モデルが続くと、資源が底をつく日はそう遠くありません。さらに最近では、環境や人権に配慮して商品を選ぶ「エシカル消費」に関心をもつ消費者が増えています。

循環型のファッションの実現は、資源の循環利用や廃棄物の削減を促進し、環境負荷の軽減に貢献するほか、環境意識の高い消費者から支持され、企業のイメージやブランド価値の向上にも役立ちます。

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ファッションブランド別|循環型のファッションへの取り組み事例

循環型のファッションへの転換が求められる中、すでに多くの国内外のブランドや企業が取り組みを進めています。ここでは、自社での取り組みの参考になる事例を3つご紹介します。Z世代を中心に、サステナブルな活動をしている企業に注目が集まっているため、できるところから取り組みましょう。

MUD Jeansの借りるジーンズ

MUD Jeansはオランダ生まれのサステナブルデニムブランドで、ジーンズを「所有する」のではなく「使い回す」という新しい価値観を提案しています。

ユーザーは初回登録料と月額料金を支払うと、1年間ジーンズを借りられるサブスクリプションサービスを利用できます。期間終了後には、買取・返却・新しいデニムとの交換といった選択肢があり、返却されたアイテムはリユースや再製品化され、資源が循環します。

「着る→ 戻す→もう一度活かす」という循環型の仕組みが、同社の軸となっているのです。

参考:MUD Jeans「世界で最もエシカルなデニム」

環境倫理を貫くステラマッカートニー

ステラマッカートニーは、イギリスの高級ファッションブランドです。自然環境への負荷を抑えた生産体制を目指し、再生素材の積極的な導入や、有害物質の使用排除といった取り組みを行っています。

環境負荷削減に向け、再生カシミア・再生コットンを導入し、従来品と同等のクオリティを実現。さらに、オーガニックコットンの使用やポリ塩化ビニルの全面不使用、ビスコース繊維の持続可能な森林管理など、素材調達から製造まで環境配慮を徹底しています。

参考:STELLA McCARTNEY「Sustainability」

服から服をつくるBRING

神奈川県に本社を構えるJEPLAN社が展開するBRINGは、循環型経済活動を実践しています。同社はポリエステル100%衣類の循環再生技術で石油由来原料を削減し、環境負荷軽減を実現。服から服へ循環させる製品づくりを推進しています。

日本企業では原料の循環を徹底できている事例が少ない中、この事例は業界の新たな指針となるものです。

参考:BRING「服の回収とリサイクル」 

【循環型の実現へ】ファッションブランドが実践する際のポイント

アパレル業界では、これまでの「使い捨て」のファッションから、「循環する」ファッションへの変革が期待されています。ここでは、循環型の実現に向けて企業ができる具体的な実践手法とポイントをご紹介します。

持続可能性を考慮した服づくり

企業には、デザイン段階から持続可能性を考慮し、長く愛用できる製品づくりが求められます。具体的には、以下を考慮した服づくりが重要です。

単一素材(100%オーガニックコットンなど)の使用
耐久性がある素材再生可能な素材の採用
シンプルでベーシックなデザイン
・成長に応じてサイズを調整できる仕様
製品の修理サービスの提供

環境に優しい素材選びは、循環型のファッションを取り入れる際の最初の一歩です。

不要な服を積極的に回収・再利用

不要になった服の回収や買取りを行い、リユース・リサイクルできる仕組みを整えましょう。

店舗に回収ボックスを設置したり、郵送での回収を受け付ける企業もあります。不要な服と引き換えにクーポンを発行する、他社ブランドの衣類も受け付けるなど、回収を促すための工夫も必要です。

回収した衣類のうち、状態のよいものは古着として販売でき、リユースできないものはリサイクル素材として再利用し、新しい製品にアップサイクルできます。

環境コストの見える化

企業側の一方的な取り組みだけでは、循環型への移行は困難です。そのため、循環型のファッションの重要性や企業の取り組みを積極的に発信し、消費者の意識を高める努力が不可欠です。

商品のタグなどで環境情報を開示するのもよいでしょう。商品がどこで、どのように作られたのか、製造過程で排出した二酸化炭素や水の消費量はどれくらいあるのか、などを明記すると、消費者が手にした服の環境負荷を知るきっかけになります。

こうした情報の開示は、消費者の購買行動に変化をもたらすだけでなく、企業の社会的責任に対する信頼感を高め、ブランド価値の向上にもつながります。サステナブルな姿勢の明確化は、企業イメージの向上やブランディングにも大きく貢献するでしょう。

まとめ|循環型のファッションで実現する企業価値の向上と環境貢献

従来の直線的な消費モデルでは、多大な環境負荷がかかり、ファッション業界の明るい未来は期待できません。循環型のファッションの実現は、限りある資源の無駄使いや過剰生産・消費の抑制に貢献し、環境負荷の軽減が実現できます。

企業にとっては、環境への貢献だけでなく、社会的責任を果たすことでブランド価値の向上に役立つでしょう。また、製品の製造過程や環境負荷の明示により、消費者からの信頼や支持を得やすくなります。循環型のビジネスモデルの導入により、企業として大きく成長する機会にもなり得るのです。

自社で行える範囲から取り組みをはじめ、社会貢献や自社の成長につなげましょう。