衣類産業のケミカルリサイクルとマテリアルリサイクル|違いや具体例を解説

環境問題が深刻化する中、衣類産業でもリサイクルへの取り組みが重要視されています。
衣類廃棄物の再活用を進めるうえで重要なのが、ケミカルリサイクルとマテリアルリサイクルです。馴染みのない言葉かもしれませんが、両者は目的やプロセスが異なり、その違いを理解することが効率的なリサイクルへとつながるのです。
今回は、衣類産業のケミカルリサイクルやマテリアルリサイクルの違いを解説するとともに、具体的な企業の取り組み例をご紹介します。
リサイクルの知識や理解を深めることで、持続可能なファッションを考えるヒントになるでしょう。
目次
ケミカルリサイクルとマテリアルリサイクルとは何?違いを解説
衣類産業のリサイクルには、ケミカルリサイクルとマテリアルリサイクルの二つの方法があります。両者の違いを知る前に、まずは現代社会の問題点とリサイクルの必要性について確認しましょう。
なぜリサイクルが必要なのか
現代社会の深刻な問題の1つである廃棄物の増加。これにより、大気汚染や埋立処分量の増大、エネルギー資源の消費量増加など、環境に多大な悪影響を及ぼしています。
リサイクルによる資源の循環的な活用は、ごみの削減や環境負荷の軽減につながるのです。
ケミカルリサイクルとは
ケミカルリサイクルは、化学的手法を使用して合成繊維を分解し、再生可能な高品質の原料を取り出すプロセスです。
モノマー化やガス化、油化などにより、以下の物質に転換されます。
・モノマー化(元の材料に戻す)→ペットボトル
・高炉原料化→製鉄所で使う還元剤
・ガス化→水素、メタノール、アンモニアなどの化学工業原料・燃料
・油化→生成油、燃料
マテリアルリサイクルとは
廃棄物を原料として再利用し、新しい製品をつくる方法をマテリアルリサイクルといいます。この方法では、同じ製品の原料となる場合もあれば、異なる製品の原料として使用される場合もあります。
・ペットボトル→ペットボトル、食品トレー、衣料品
・古紙→再生紙
・デザートカップや洗剤ボトル→ベンチ、物流用パレット
・衣料品→中綿、工業資材
参考:一般社団法人プラスチック循環利用協会「プラスチックリサイクルの基礎知識」
衣類産業で注目されているケミカルリサイクルとマテリアルリサイクル
環境問題への対応が求められる衣類産業では、ケミカルリサイクルとマテリアルリサイクルが重要な役割を果たしています。衣類産業が抱える環境問題とともに、それぞれの方法の実際の取り組みについて詳しくみていきましょう。
衣類に含まれるプラスチック問題
低価格で提供されている衣類の多くにはプラスチック繊維が使用されています。プラスチック繊維でつくられた衣類が大量に生産されては次々と捨てられることで、プラスチック廃棄物は増加し、環境に大きな影響を与えます。
日本国内で毎年捨てられる衣類の量は約47万トン。その中でも焼却が難しいプラスチック繊維は、埋め立て処理され、最終的に埋立地の逼迫や土壌汚染といった深刻な環境問題を引き起こしています。
衣類産業が与える環境への影響
アパレル業界における過剰な生産と消費は、様々な環境問題を引き起こす原因となります。
①マイクロプラスチック流出
プラスチック繊維を使った衣類の洗濯をする際に、非常に細かいプラスチック繊維が排水に流れ出し、最終的に海洋に達してしまう可能性があります。これにより、海洋汚染や生態系への影響が懸念されています。
②資源の消費増大と環境汚染
衣類の生産、特に合成繊維を使用した製品の製造には大量の水やエネルギーが必要です。さらに生産から廃棄に至るまで、大量の二酸化炭素が排出され、地球温暖化を加速させる原因に。加えて、プラスチック繊維は自然に分解されにくく、廃棄後は地下水や土壌を汚染する危険性もあります。
参考:環境省「SUSTAINABLE FASHION」
衣類のリサイクルの変化
これまで、回収された衣類は、切断や反毛を行い工業用素材として再利用するのが一般的でしたが、その用途は限定されていました。
しかし、合成繊維の廃棄問題が深刻化する中、従来のマテリアルリサイクルに代わり、ケミカルリサイクルが注目されています。
ケミカルリサイクルでは、合成繊維を化学的に分解して不純物を取り除き、より高品質な原料の再生が可能になります。これにより、高いクオリティを保ちながらも、環境に優しいファッションの実現が可能になるのです。
【企業の取り組み】ケミカルリサイクルとマテリアルリサイクルの具体例
ファッション業界の持続可能性に貢献するため、ケミカルリサイクルやマテリアルリサイクルに積極的に取り組む企業が増えています。ここでは、企業の具体的な取り組み事例をご紹介します。次に服を購入するさいに、リサイクルされているアイテムを購入してみしてはいかがでしょうか。
ユニフォームをマテリアルリサイクルする
不要となったユニフォームを回収し、それを繊維に加工して新しい製品をつくる「マテリアリサイクルシステム」を導入している企業があります。
このシステムでは、ユーザーが「マテリアルリサイクルマーク」の付いたユニフォームを着用し、使用後に返却。返却されたユニフォームが再利用され、新たな製品の原材料として活用されます。
服から服を作る取り組み
いくつかのブランドと連携して不要になった服を回収し、それを加工して新しい服をつくり出す企業があります。
この企業の特徴的な取り組みは、独自のケミカルリサイクル技術を活用し、回収した衣類のポリエステル繊維を新品同様の品質のポリエステル樹脂に再生することです。再生された高品質な素材は、他企業への供給やアパレル製品として活用されます。
ポリエステルを多く含む繊維廃棄物をリサイクル
ある企業では、ポリエステルを多く含む合成繊維からつくられた衣類を再利用し、その素材を新しい服に再利用する活動を展開しています。
この企業のリサイクル技術で作られた糸や生地は、新品同様の品質をもつといわれており、有名アパレル企業がその素材を購入しています。また、ファッションショーでリサイクル素材を使用したコレクションを発表するブランドも。
環境保護に加え、高品質なリサイクル製品の製造にも注目が集まっている企業もあります。
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まとめ|ケミカルリサイクルとマテリアルリサイクルの違いを具体例とともに解説
これまで、衣類のリサイクルは用途が限られていました。そこで衣類産業では、ケミカルリサイクルとマテリアルリサイクルを通じ、環境保護に向けた取り組みが進められています。
具体的な事例として、使用済みのユニフォームから新たな製品の原料として再利用するマテリアルリサイクルが挙げられます。また、ポリエステルなどの素材を化学的に処理して高品質な再生素材を作り、これを新しい衣類に活かすケミカルリサイクルも注目されている方法です。
これらの努力は、廃棄される衣類の削減だけでなく、資源の効率的な活用や環境への負荷軽減に貢献しています。今後、ますます地球に優しいファッションが求められる中、企業や消費者が手を取り合ってリサイクルを推進することが求められます。